「ハムレット」の日本語訳でかねて疑問を感じている個所があります。三幕一場の、有名なハムレットの第三独白冒頭の To be, or not to be: that is the question: に続く部分です。ここで
Whether 'tis nobler in the mind to sufferが To be, or not to be の敷衍であることは、まず間違いないでしょうが、そうだとすると「〜と〜のどちらが立派か」式の従来の訳は理屈に合いません。なぜなら、台詞を素直に読む限り,「生きてこの世にとどまるべきか、それともこの世から消えてしまうべきか」という問題は、「暴虐な運命の矢弾をじっと耐え忍ぶのと、寄せ来る苦難に敢然と立ち向かい、闘ってそれに終止符を打つのと、どちらが立派か」という問題とは全く別問題だからです。消極的、受動的にただ運命に耐えるのも、積極果敢に困難と闘うのも、いずれも人間の生き方であって、二つの生き方のどちらがより立派かというのは、生と死のどちらを選ぶべきかとは別の問題です。
The slings and arrows of outrageous fortune,
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them.
このようにコンテキストから考えるとすっきりしない従来の日本語訳ですが、これが通ってきた理由も見当がつきます。独白の最初にA or B とあり、続くWhether 節にもA’ or B’ と同じ形が繰り返されるのですから、Aと A’、BとB’ がそれぞれ対応していると考えるのはごく自然であり, Whether 節の訳の内容も、文脈に目をつぶってこれだけを取り出して考えれば、ハムレットの置かれた状況とぴったりだからです。とは言え、「寄せ来る苦難に敢然と立ち向かい、闘ってそれに終止符を打つこと」が「この世から消えてしまうこと」のパラフレーズだと言われると、首を傾げてしまいます。not to be に対応する言い替えはWhether 節の中には無く、直後のTo die であり、それも苦難との果敢な闘いの後に来る死といった、能動的な意志を暗示するものではない、と考える方が常識的でしょう。十数行先の、この世から逃れるために短剣の一突きで自らの命を絶つといった逃避的な死と考える方が違和感がありません。
ではどう解釈すれば冒頭部分のつじつまが合うかということになりますが、Whether 節の文法的構文のとらえ方をこれまでと大きく変えて、it は to suffer~ or to take ~ を指す形式主語と取り、内容が対照的な二つの不定詞はTo be を具体的に言い替えて説明している、と考えてみてはどうでしょうか。Whether to be is nobler (than not to be )、すなわち「この世にとどまって、暴虐な運命を耐え忍ぶことが、あるいは寄せ来る苦難と闘いそれに終止符を打つことが、命を絶ってこの世から消えてしまうことよりも、はたして立派だろうか」という解釈です。これでTo be, or not to be: that is the question: とWhether 節との続き具合は、パラフレーズとしてより常識的に納得のいくものになると思います。
Any passenger not producing or deliverying up his ticket as aforesaid, will be required to pay the fare from the most distant place whence any part of the train originally started....すなわち、乗車券を呈示しない人からは、全区間の料金を請求できる、とある。現在の日本でも、同じ規則を持つ鉄道会社があるかと思うが、不正乗車したことがまだないので、詳しいことはわからない。
最後に、 Workers of the Nation の第1巻と第2巻(1903年)を紹介する。これは、20世紀初期の様々な職業を説明する、社会史の研究にも貴重な本だ。次の写真は、Buildings, Bridges, and Building Trades の章に出ている。
We judged that three nights more would fetch us to Cairo, at the bottom of Illinois, where the Ohio River comes in, and that was what we was after. We would sell the raft and get on a steamboat and go way up the Ohio amongst the free States, and then be out of trouble.
CHICAGO—In its ongoing effort to cut transportation costs and boost profits, United Airlines announced Tuesday that it was exploring the feasibility of herding them into planes and stacking them like cordwood from floor to ceiling.この記事の背景には、米国の航空業界での激しい競争とコスト削減によるサービスの低下がある。米国の国内便を使う人は "The airlines treat passengers like 「luggage [freight, cattle, animals]." などのようにサービスの悪さを嘆くことが多いので、"United Airlines Exploring Viability Of Stacking Passengers Like Cordwood" のように stack の目的語を明示しても冗談が通じるが、指示対象を伏せたことで The Onion の作者が「乗客の物品化」に間接的に言及できてユーモアをワンランクアップできたのだ。このワンランクアップは、英語の文法、すなわち「stack のような他動詞を使用するとき、目的語の名詞か代名詞を省略できない」と「代名詞が使われる場合、その指示対象が文脈から明確でなければならない」というルールに依存している。日本語など、目的語や代名詞の省略が可能な言語では、これらのルールをわざと「違反」することができないので、同様なジョークが成り立ちにくい。
John Smith is well known for his research that attempts to explain the relationship between gismos and gadgets.(ジョン・スミスは、「何とかいうもの」と「呼び方がわからないやつ」との関係を説明しようとする研究でよく知られている。)この文を口頭で読み上げたときに何となく ...is well known for his research that... の部分に引っ掛かってしまった。これは不自然と感じたが、どこが不自然か、特定できなかった。最初は ...is known for his research... のほうが普通だと思って、ウェブで検索したが、そうでなないと分かった。グーグルとビングでの検索結果は、下記のとおりだ。
"is known for his research" 845,000件(グーグル), 267,000,000件(ビング)グーグルとビングの間で件数がこんなに違うのは、たぶん「件」、即ちウェブページの数え方の違いによるだろう。いずれにしても、実際の用例を見ると、"is known for his research" も "is well known for his research" も立派な文脈で使われているので、両方とも「自然な英語だ」と言わざるをえない。
"is well known for his research" 4,000,000件(グーグル),266,000,000件(ビング)
"is well known for his research that" 7件(グーグルとビング)この結果を見ると、不自然さは ...for his research that... に由来すると分かる。"conducted research that" や "reported research that" はグーグルで数十万件があるので「research + that節」という構文は問題ないが、research の前に所有形の名詞を使うと、件数がぐんと減る。これは、多分、his のような所有形が持つ限定性(definiteness)と that節の限定性がバッティングすることから起こっていると思うが、この文法の詳細は分からない。
"is well known for his research on" 2,110,000件(グーグル), 52,500,000件(ビング)