日本食レストラン「メグカフェ」
ガンジス河の流れる、インド・ヒンドゥー教の聖地バラナシで、日本食レストラン「メグカフェ」を営む久田恵美さん。調理補助とウェイターをつとめるのは、インド人の夫、サンジェイさんだ。調理師免許を持つ久田さんが振る舞うのは、日本家庭のやさしい味。なにかと刺激的なインドで、旅行者の癒しとなっている。
「お客さんが増えていくと、流れ作業みたいになってしまう。それが嫌で、自分の楽しみのためにも、できるだけお話はするようにしています。お客さんから韓国語を習ったりもするので、使ってみる。お金のためだけにやっているのではない、というのがありますので」
そう話す久田さんの姿からは、メグカフェと、お客さんをほんとうに大切に思う気持ちが伝わってくる。その温かい人柄と絶品の料理で、メグカフェは、観光シーズンは寝る間もない、というほどの繁盛ぶりなのだ。
ビビビッ! サンジェイさんとの出会い
そもそも、久田さんはどうしてインドにいるのだろう?
遠い異国の地で食堂を、という設定は、フィンランドを舞台にした映画『かもめ食堂』さながら。しかし、メグカフェの背景にあるのは、おしゃれな北欧雑貨ではなく、わがもの顔で街中を歩く牛と、その落とし物だ。まさに、別世界である。人生、なにがどうなったら、インドでレストランを開くことになるのだろう。
はじまりは、インド人の夫、サンジェイさんとの出会いだった。なんと、初対面にして、サンジェイさんに運命を感じたのだという。
「インド人と結婚することになるなんて、考えてもみなかった」と話す久田さんは、旅が大好きなバックパッカーだった。そのうち、なぜかインドにひきつけられ、インドだけに通うようになった。
バラナシで、インドの伝統楽器シタールを学びはじめた久田さんは、1年のうち、半年はインドに滞在し、残りの半年は日本で調理の仕事をする、というような生活を送っていた。そんななか訪れたのが、サンジェイさんが経営していた音楽店だった。
出会ったときのことをたずねてみると、「なにかビビビッとくるものを感じたとしか説明しようがない」のだという。
その後、久田さんの猛アタックがはじまる。出会って2か月で結婚を決意し、その1年後に挙式という、まさに電撃結婚。迷いはなかったのだろうか。
「やっぱり恋は盲目なので、ポンと決められました(笑)。バラナシでは、つき合うイコール結婚ってなる、っていうのを聞いて、それなら結婚しかないな、と思って」
なにごとも、目標が定まれば猪突猛進という久田さん。ご両親や友人からの反対も「自分が選んだ人なのだから」とはねのけ、インドでサンジェイさんと生きていくことを決意したのだった。